オブジェクト認識における7つの課題

オブジェクト認識、つまり、UI 内のさまざまな要素を認識する機能は、UI テストの重要な要素のひとつです。テスターは通常、自動化スクリプトを使用して、ボタン、テキストフィールド、メニューなどのコンポーネントを検証します。しかし、適切なツールがなければ、UIテスターが、動的コンテンツを含むより複雑なアプリケーションの自動化に取り組むことは困難です。だからこそ、正確なオブジェクト認識を提供するツールが必要になります。

複雑な環境におけるオブジェクト認識

オブジェクト認識は、次の理由からUIテストにとって重要です。

  • テストの自動化: オブジェクト認識は、UI要素を一貫して認識し、UI操作をおこなうスクリプトを自動化することで UIテスト自動化を可能とします。その結果、手動テストの必要性を低減します。
  • 一貫性: オブジェクト認識ツールはさまざまな環境に適応するため、さまざまなシナリオでUIがどのように動作するかをカバーできます。
  • 回帰テストの実行: 自動オブジェクト認識により、UI要素をすばやく検出し、新しいコードの変更前と同じように動作することを確認します。
  • スピード: 自動化によってテストの実行が高速化され、時間と労力を要する大規模な手動テストが不要になります。
  • より完全なカバレッジ: オブジェクト認識により、テスターはすべての要素を見つけられるようになり、見落としがないことを確認できます。
  • 精度の向上: オブジェクト認識プログラムを使用することで、自動テストがさまざまなUI要素をより正確に特定できるようになり、信頼性が向上し、ヒューマンエラーが減少します。

🎯 オブジェクト認識における課題

AIオブジェクト認識は、正しく実装されれば、自動テストをよりシームレスにするのに役立ちます。ただし、異なる複数のオブジェクト認識方法を使用すると、以下のような課題が生じます。

課題 #1: オブジェクトの外観の可変性

レスポンシブデザインの進化により、Webデザイナーはユーザーにコンテンツを提示する革新的な方法を開発できるようになりました。ただしこれは、画面サイズの異なるデバイスで使用されたときに、UI要素の見た目が変わってしまう可能性があることを意味します。たとえば、デスクトップモニターでは前面中央に表示される要素が、モバイルデバイスで表示するとメニューの中に消えてしまうことがあります。

要素は、ユーザーの入力やリアルタイムのデータ、アプリケーションの状態の変化に基づいて動的に変化することがあります。これにより、コンポーネントの外観が変化したり、DOM (Document Object Model) 内でのコンポーネントの配置位置が変化したりします。

Webページの要素は、使用するWebブラウザーによってレンダリング方法が異なります。Google Chromeを使用して表示されるページは、レンダリングエンジンやCSSサポートの種類によって変化することがあり、要素のサイズ、スタイル、位置に不一致が生じます。

ボタン、リンク、モーダルなどのコンポーネントは、ユーザーの操作に応じて状態が変わることがよくあります。また、複数の言語をサポートするアプリケーションは、ユーザーのロケールによって表示が異なることがあります。

課題 #2: サイズと位置のばらつき

要素のサイズと位置は画面のサイズと向きによって異なるため、オブジェクト認識ツールで要素を特定するのが難しくなります。これは、高解像度の画像をレンダリングするように設計された高DPI (1インチあたりのドット数) ディスプレイの場合に特に当てはまります。UI要素を拡大縮小すると、事態はさらに複雑になります。

これらの問題は、オブジェクトを絶対位置ではなく相対位置で認識することで解決できます。さらに、DOM構造の変更に適応できるXPathやCSS などの柔軟なセレクターの使用も検討してください。

安定した予測可能な位置にあるアンカー要素を確認します。ドロップダウンの位置が変わった場合は、常に配置されている特定のラベルを探すことでドロップダウンを発見できます。最後に、これらのオブジェクト認識とレスポンシブデザインのテストを組み合わせて使用し、さまざまな状況での要素の変化に対応できるようにします。

課題 #3: 背景の複雑さ

多くのWebデザイナーは、Webサイトの美観を高めるために、動的な背景や複雑な背景を追加します。しかし、そのために、UIテスターがUI要素を正確に見つけて操作することが難しくなります。

アニメーションやビデオの再生など、背景が頻繁に変化すると、要素が見えにくくなり、オブジェクトの認識が難しくなります。高コントラストの背景やパターン化された背景は、視覚的なノイズを増やし、異なるコンポーネントを見つけにくくします。

透明度を使用すると、要素が背景に溶け込むことがあります。モーダル、ツールチップ、フローティングボタンなどの要素は、視覚情報のレイヤーを増やす可能性があり、オブジェクト認識ツールにとって扱いにくくなる場合があります。

これらの困難を克服するための戦略としては、以下があります。

  • カラーフィルタリング、エッジ検出、コントラスト強調などの高度な画像処理技術。複雑な背景でもUIコンポーネントの視認性が向上します。
  • AIと機械学習 (ML) モデル。サイズや相対位置などの特徴の組み合わせに基づいて要素を認識します。
  • オブジェクトセグメンテーション。異なる要素に対応する領域に画像を分割し、複雑な背景から分離します。
  • テンプレート マッチング。画面の一部を保存されたテンプレートと照合して、アルゴリズムが要素を見つけるのを支援します。

課題 #4: リアルタイム処理の必要性

リアルタイム処理は、自動テストのフローを維持するのに役立ちます。以下は、テスターが直面する課題の概要です。

  • 遅い処理: オブジェクト認識アルゴリズムは、リアルタイムのアプリケーションの変更に対応するために、要素を迅速に処理する必要があります。遅延があると、遅い処理の見逃しやテストの失敗につながります。
  • 絶え間ない変化: 多くのリアルタイムアプリケーションのコンテンツは常に変化しているため、オブジェクト認識には迅速な適応が求められます。
  • 同時実行の必要性: 自動テストでは、複数の要素を次々に、または同時に処理する必要があることもあります。オブジェクト認識は、これらの操作を遅延なく処理する必要があります。
  • リソース制限: リアルタイムのオブジェクト処理は、大量のCPUとメモリを消費します。多くのテスターは、アプリケーションのパフォーマンスとオブジェクト認識のニーズとのバランスを取るという課題に直面します。

以下に、テスターが上記の課題を克服するために利用できる戦略をいくつか示します。

  • アルゴリズムの最適化: 実行速度を上げるには、特徴点マッチングやテンプレートマッチングなどの技法を使用して、オブジェクト認識で使用されるアルゴリズムを最適化してみてください。
  • 並列処理: 並列処理を使用して、オブジェクト認識負荷タスクを複数のCPUコアに分散します。これにより、処理時間が短縮され、テスターは同時操作をより効率的に処理できるようになります。
  • 増分処理:この手法では、認識結果をさまざまな増分で処理します。つまり、フォーム全体を最初から再処理するのではなく、UIは特定の間隔でのみ結果をキャプチャします。
  • データ構造の使用: ハッシュテーブルや空間インデックスなどのデータ構造を作成し、UI要素情報の管理とアクセスに役立てます。

課題 #5: 他のシステムとの統合

UIテスターが他のシステムでオブジェクト認識ツールを使用する際、遭遇する問題の1つは互換性です。テストの環境では、他のソフトウェアと競合するプロトコル、データ形式、APIが使用されることがあります。また、オブジェクト認識ツールと他のテスト環境間で、シームレスなデータ交換を確実におこなう必要があります。

これらの問題を回避する1つの方法は、統合において、標準化されたAPIとプロトコルを使用することです。RESTful APIとWebSocketを使用すると、オブジェクト認識ツールと他のツール間の通信を効率化できます。開発者に適切なスキルセットがある場合、異なる種類のソフトウェア間のデータ形式とプロトコルの変換に役立つミドルウェアやアダプターを構築できます。

課題 #6: 限られたデータからの学習

小さなデータセットで真に堅牢なデータモデルを構築するのは困難です。それは次のような問題につながる恐れがあります。

  • 不十分な一般化: 画面サイズ、テーマ、動的コンテンツなどのUI要素のバリエーションについて、モデルをトレーニングするための情報が不十分な場合があります。
  • 不十分なバリエーション: 限られたデータセットを使用してモデルを作成すると、モデルの知識にギャップが生じることがあり、実世界のシナリオを評価するうえで効果が減少します。
  • バイアス: データセットが小さいほどバイアスが生じやすくなり、モデルの予測がトレーニングデータに偏ってしまい、他の可能性が無視されます。
  • 精度の低さ: オブジェクト認識モデルがUI要素を正確に特定して操作するために機能について十分に学習するためには、データセットにさらに多くの情報が必要になる場合があります。

次の戦略はこれらの問題を軽減するのに役立ちます。

  1. データの拡張: 変換を使用してデータセットの多様性を人工的に高めます。
  2. 転移学習: 事前にトレーニングされたモデルを取得し、より限定されたデータセットを使用して微調整します。
  3. 合成データの生成: テスターは合成データを使用して現実的なUI要素を設定できるため、より多様なトレーニングデータセットを作成できます。

課題 #7: 新しいオブジェクト クラスへの適応

新しいクラスを使用してオブジェクト認識モデルをトレーニングするには時間がかかることがあります。多くの場合、現在のクラスと新しいクラスで精度を維持するためにモデルを再トレーニングする必要があります。例としては、以前に学習した情報をすべて記憶しながら、新しいオブジェクトクラスを認識するようにモデルをトレーニングすることが挙げられます。

よくある問題は、新しいクラスに対してより堅牢なモデルを作成するために利用できるデータが限られていることです。そのため、パフォーマンスを低下させることなくモデルの精度を維持することが難しくなります。

転移学習に加えて、テスターはこれらの課題を克服するためにインクリメンタル学習を利用することができます。例えば、Elastic Weight Consolidation (EWC) のような方法は、「モデルが新しいデータを吸収する際に、以前に学習した情報を忘れてしまう」という壊滅的な忘却を避けるのに役立ちます。

✅ オブジェクト認識の課題を克服するためのベストプラクティス

テスターと開発者は、次のベストプラクティスに従うことで、これらの問題がディープラーニングによるオブジェクト認識のテスト作業に影響することを回避できます。

1. 安定したロケーターを活用する

UIコンポーネントを見つけるには、IDやRIAラベルなどの一意で安定した属性を組み込みます。頻繁に変更される可能性のあるロケーターは使用しないでください。

2. データ拡張と合成データを組み込む

データ拡張の技法は、トレーニングモデルをより多様なものにし、一般化に役立ちます。UIテスト用に正確な情報を得るのが難しい場合は、合成データで代用してみてください。

3. 高度なモデル技術を使用する

事前にトレーニングされたモデルを使用して、より限定されたデータセットからモデルを更新してみてください。また、Few-shot Learning (フューショット学習) を使用することもできます。これは、少数のラベル付きサンプルからより正確な予測を行うようにモデルが学習するフレームワークです。

この記事は、開発元 Ranorex 社 Blog 「7 Common Object Recognition Challenges」2023年7月18日の翻訳記事です。)