高精度・高速制御が求められる検査装置のソフトウェアのUIテストをRanorexで自動化、4割の工数削減と不具合解消による損失回避を実現

半導体パッケージやプリント基板の検査装置の開発・設計、製造、販売を手がけるニデックアドバンステクノロジーは、検査装置に組み込むソフトウェアのテスト効率化に向けて、UIテスト自動化ツール「Ranorex」を導入した。これまで手動で対応してきたUIテストを自動化することにより4割の工数を削減。併せてソフトウェアの不具合を早期に確認して対応することで、製品出荷後に発生する不具合を激減させ、アフターサービスの作業工数削減と損失回避を実現している。

ニデックアドバンステクノロジー株式会社
本社:京都府向日市森本町東ノ口1-1 ニデックパークC棟
設立:1991年11月25日
資本金:9億3,800万円
従業員数:単独320名 連結2,010名(2025年3月31日現在)

ニデックグループの一員として、電子部品の「計測と検査」を行う装置を製造。世界10カ国15拠点で事業を展開し、半導体パッケージとプリント基板の検査装置では高い世界シェアを誇る。近年はパワー半導体の検査装置やEV向けモータ用性能評価試験ベンチなども手がけ、製品ポートフォリオの拡大を図っている。
https://www.nidec.com/jp/nidec-advancetechnology/

技術開発本部 技術開発第3部 開発第3グループ グループ長
池谷 直泰 氏

技術開発本部 技術開発第3部 開発第1グループ 開発チーム チームリーダー
平木 靖雄 氏

技術開発本部 技術開発第3部 開発第3グループ

後藤 健造 氏

技術開発本部 技術開発第3部 開発第3グループ

中岩 美智子 氏

検査装置の機種や顧客の増加に備えて、ソフトウェアのUIテスト自動化を検討

ニデックアドバンステクノロジー株式会社(以下、ニデックアドバンステクノロジー)は1991年の設立以来、電気・電子の分野のデファクトスタンダードの計測・検査技術を錬磨しながら、世界中の顧客にソリューションを提供してきた。主力製品の半導体パッケージやプリント基板の検査装置は、パッケージや基板の品質を保証する重要な役割を果たすことから、取引先からは高い製品品質が求められている。同社は装置の心臓部を担う高性能ICとソフトウェア、サブミクロン単位での加工・組立を行う装置ハードウェアとフィクスチャー製品、2次元3次元の光学・画像処理技術、3次元加工技術を高い次元で融合することでそのニーズに応えている。

半導体パッケージやプリント基板の導通・絶縁状態を検査する装置において、ソフトウェアは検査物の位置制御、検査結果の出力と画面表示、ログの出力、外部サーバーとの通信などを司る。技術開発本部 技術開発第3部 開発第3グループの後藤健造氏は「回路の導通絶縁検査には、ミクロン単位の精度で検査物を制御する技術や、数百から数千のポイントを高速で検査する技術が求められます。当社ではソフトウェアを自社で設計・開発し、高精度・高速制御を実現しています」と語る。

検査装置で重要な役割を果たすソフトウェア開発において、同社はUIテストを手動で行ってきた。しかし、開発機種や顧客の増加につれて、人に依存したテストは限界に近付いていた。技術開発本部 技術開発第3部 開発第3グループの中岩美智子氏は「取引先は50社以上あり、1社につき製品の種類は3~4機種あるため、テストパターンは200近くになります。その結果、テスト項目の作成からテストの実施までに長い時間を要し、担当者の負担も増えていました」と振り返る。

製造の最終工程であるテストに与えられる時間は多くない。そのため少しでもテストを効率化する必要があることから、同社はUIテストの自動化に踏み切ることにした。「基本的なテストを自動化し、複雑なテストは手動で念入りに対応することで、テスト担当者の負担軽減と製品品質の向上を目指すことにしました」と後藤氏は語る。

デスクトップアプリに対応したRanorexを採用、3カ月で導入しミニマムスタートで利用開始

テスト自動化ツールの導入を検討した同社は、2022年にRanorexを採用した。選定の経緯をソフトウェアの開発者である技術開発本部 技術開発第3部 開発第1グループ 開発チーム チームリーダーの平木靖雄氏は次のように説明する。

「当初はプログラムの単体テストツールを探したものの、開発者によって異なるコーディングの癖を吸収できるツールが見当たりませんでした。そこでUIテストに着目したところRanorexの存在を知り、体験版の利用を経てライセンス購入に至りました。海外製品ではあるものの、テクマトリックスのサイトに日本語ページがあり、サポート体制もしっかりしていることを考慮して採用を決めました」

Ranorexは同社が検討した他のUIテスト自動化ツールと比べて操作が簡単で敷居が低かったことや、Webアプリやモバイルアプリ以外にデスクトップアプリに対応している点についても評価が高かった。

Ranorexの導入時は、従来の手動テストと自動テストの整合性を確認する評価テストを実施。その後、ソフトウェアの基本動作をひととおり確認する「マトリックス試験」に対応できるかをチェックし、さらにテストを連続して実施するための調整などを約3カ月かけて行った。導入の前半は開発部門のテスト専任担当者がテクマトリックスの担当者に随時質問しながら検証し、後半は独自にオペレーション体制を整備していった。

テスト自動化へのスムーズな切り替えに向けてミニマムスタートを方針とし、まずはソフトウェアの設定画面の正誤を判定するテストから利用を開始。その後、テスト担当者がRanorexに慣れてきた段階でマトリックス試験へと適用範囲を拡大していった。

「テスト担当者の中には、新しいことに積極的な人もいれば、旧来のやり方にこだわる人もいるので、少しずつ実績を積み上げていきました。結果として部門内で認知度が高まり、全員が前向きにテスト自動化に取り組むようになりました」(後藤氏)

導入時はRanorexを効果的に利用するためのコスト検証も念入りに実施した。平木氏は「テストパターンや合格基準はできるだけ共通化・汎用化し、テスト機種が増えた場合もツール設定にかかる工数を減らす工夫をしました。また、自動テストと手動テストを並行して実施して工数を比較し、損益分岐点を意識できるようにマネジメント層に提示しました」と語る。

最終テストとデグレードテストでマトリックス試験を実施

現在、Ranorexによる自動テストは、製品出荷前の最終テストと、デグレードテストの2つにおいて、マトリックス試験を実施している。デグレードテストは最新のソースコードでビルドしたソフトウェアに対して毎日夜間にRanorexを実行し、翌朝に結果を確認している。自動テストの対象は、現在のところ主要な取引先3~4社に納品する機種で、1社につき3~4種類程度だ。テストパターンの作成やテストの実行は外注先に委託し、専任の担当者が実施したテスト結果を同社がレビューしている。

Ranorexに慣れてくると、便利な機能もわかってきた。同社が特に評価しているのが、Excelシートやデータベースからテストケースの入力値が取得できる「データ駆動型テスト」だ。平木氏は「テストプログラムを1つ作れば、変数は外部から取得するだけで複数パターンのテストができるので、開発面でも役立っています」と語る。

2023年にはブラウザベースのテスト管理ツール「TestRail」を追加導入し、現在はRanorexによる自動テストの結果を連携し、毎日TestRail上で確認している。後藤氏は「夜間に実施するテストが10パターン程度に増え、翌朝の結果確認で負担がかかるようになりました。TestRailならすべてのテスト結果がブラウザー上でまとめて参照できるので、結果確認の工数が削減でき、不具合の情報を開発者にスピーディにフィードバックすることが可能になります」と語る。

テスト期間が従来の5日から3日へと短縮、不具合の早期発見・対処で出荷後の不具合も激減

Ranorexの導入とテスト自動化により、期待どおりの成果を得ることができた。テスト工数は、マトリックス試験の場合で手動と比較して4割削減され、テスト期間も従来の5日から3日へと短縮されている。また、毎日のデグレードテストによりソフトウェアの不具合を早期に発見でき、開発段階で対処することで製品出荷後に発生する不具合も激減した。

技術開発本部 技術開発第3部 開発第3グループ グループ長の池谷直泰氏は「テスト工数の削減も大きな成果ですが、それ以上に大きいのがソフトウェアの不具合を早い段階で解消できることです。出荷後にお客様先で不具合が見つかった場合、現地のカスタマーサービスに依頼して対応することになり、大きな工数が発生します。また、不具合対応を最優先することになり、その間は他の作業も後回しになります。外部で発見した不具合の対応工数は内部対応工数の10倍近くになるため、内部で不具合をつぶすことができれば10分1以下にコストを抑制できることになり、巨額の損失回避につながっています」と語る。

今後はテスト自動化の対応顧客、対象機種を拡大し、さらなる効率化を図っていく考えだ。テストの内容も、毎日夜間で実施しているテストについては、マトリックス試験以外に個別機能のテストに拡大する構想も描いている。Ranorexの利用拡大に向けてテクマトリックスにはテスト効率化に向けた支援に期待を寄せている。

記載されているあらゆる会社名、製品名は、各社の商標または登録商標です。取材日:2025年5月