負荷が増す一方のUIテストを「Ranorex」で自動化 無影響確認テストの作業工数を半分に削減し、エンジニアの「働きがい向上」の実現にも貢献
MS&ADインシュアランスグループのシステム中核会社であるMS&ADシステムズは、保険代理店向けシステムの刷新プロジェクトをきっかけに、UIの無影響確認テストを自動化するツールとして「Ranorex」を導入した。これまで手作業で実施していた工程を自動化することで、作業時間を半分に短縮。この効率化は、コストの最適化に加えて、社員がスキルや知識を習得するための時間を創出し、「働きがい向上」にも寄与している。その成果を社内全体で広く展開して「Ranorex」の活用範囲を拡大することで、全社での開発生産性の向上に取り組んでいる。
MS&ADシステムズ株式会社
1986年7月設立。
MS&ADインシュアランスグループの一員として、グループ全体のITシステム全般にわたる企画・設計・開発・運用を手がける。デジタル技術をベースとした新たな保険商品やサービスをタイムリーに提供することで、グループ全体の価値向上への貢献を目指す。
https://www.ms-ad-systems.com
自動車・種目共通システム本部
種目共通システム部
共通オンライングループ 兼
アーキテクト部 上級マネジャー
山下 竜舞 氏
自動車・種目共通システム本部
種目共通システム部
共通オンライングループ
デザイナー
武田 結花 氏
自動車・種目共通システム本部
種目共通システム部
共通オンライングループ
エンジニア
篠崎 裕亮 氏
グループの収益基盤強化に貢献しつつ、エンジニアの“働きがい向上”を実現
MS&ADシステムズ株式会社(以下、MS&ADシステムズ)は、MS&ADインシュアランスグループのシステム中核会社として、グループ全体のIT戦略全般を担っている。2022年に発表された同社の中期経営計画では「品質・システムリスク管理態勢の強化」「ITリソースの最適化・システム開発力の強化」「人財開発の強化・働きがい向上」の注力を掲げているが、それに寄与する取り組みのひとつとして同社が進めているのが「開発生産性」を高めるためのテスト自動化となる。この取り組みにより、テスト工程における作業を効率化し、システム開発・運用にかかるコストを最適化することで、グループの収益基盤強化に貢献するものと期待されている。
同社の種目共通システム部 共通オンライングループの上級マネジャーである山下竜舞氏は、「テスト自動化には、システムコストの最適化に加えて、さらに大切なポイントがあります。テスト工程を効率化することで捻出された時間が、社員自身にとって、新たな技術やスキルを学んだり、ワークライフバランスを実現したりするための時間になる点です。中期経営計画で掲げているテーマのひとつに“人財開発の強化・働きがい向上”がありますが、テスト自動化は、それに寄与する取り組みでもあると捉えています」と話す。
負荷が増し続けるテスト工程を自動化し、開発生産性向上と社員の時間創出を図る
近年、OSやWebブラウザーは、数週間から1カ月程度の短いタイムスパンで、脆弱性対応や新機能追加などのアップデートが行われるようになっている。こうした頻繁なアップデートサイクルは、よりセキュアで革新的な機能をユーザーが享受しやすいというメリットがある一方で、システムの開発・運用を担うIT会社にとっては、頭の痛い問題にもなっている。同社でも、システム環境のマルチデバイス化、マルチブラウザー化が進む中で、テストにかかる負荷が高まっていたという。
「特定のOSやWebブラウザーのみがターゲットだった時代と比べると、行わなければならないテストのボリュームが指数関数的に増えており、それが開発・運用全体の工数を圧迫する状況になっています。開発生産性とコスト効率を高めていくことを考える時、自動化ツールによるテスト工程の効率化が、投資対効果の高い取り組みになるだろうと考えていました」と山下氏は話す。
山下氏のチームが、本格的にUIテスト自動化に取り組むきっかけとなったのは、2017年にスタートした保険代理店向けWebシステムの刷新プロジェクトだった。このプロジェクトは、フロントエンドのWeb UI刷新を含む大規模なものであり、UIについては、従来のPC向けWebブラウザーだけでなく、タブレットデバイスにも対応できるモダンなものへと一新することが計画されていた。
同社では従来、テストケースの作成、実行、検証、証跡の取得、管理といった工程をエンジニアの手作業で行っていた。刷新プロジェクトでは、新規機能の開発に加え、新たな環境での既存機能の動作も確認する必要があり、テスト工程が膨大になることが見込まれた。プロジェクトの期間やコストを最適化していく上で、テスト工程の効率化は避けられない状況にあった。
「テストには、大きく“新規開発プログラムのテスト”と“既存プログラムの無影響確認テスト”があります。特に“無影響確認テスト”は、新たに対応するOSやWebブラウザーのすべての組み合わせに対してテストを行い、リリース後も環境がバージョンアップするたびに繰り返し行う必要があります。この部分を自動化することで、効率化の規模は大きくなり、ツールへの投資回収も早められると考えました」(山下氏)
同社は比較検討の結果、自動化ツールとして「Ranorex」の導入を決定。評価のポイントとなったのは「初期導入のしやすさ」だ。一般的な自動化ツールでは、標準機能としてマルチデバイスをサポートしたものは少ない。また、大半のツールは現場への導入にあたって何らかのカスタマイズを加える必要があり、時間と手間がかかることが想定されたが、Ranorexは、同社の求めるテストプロセス全体に対応できる機能を標準で備えていた。
中でも画期的だと評価されたのは、テスト作成時の操作を画面遷移も含めて保存し、再利用できる機能だ。同社でRanorex活用のリーダーを務める共通オンライングループ デザイナーの武田結花氏は、「テスト作成時に操作した画面の動きとシナリオを保存して、実行と証跡取得を自動化できるのは画期的だと感じました。また、既存シナリオの一部だけを変更したい場合に、個別にコーディングなどをする必要がなく、Ranorex内の編集機能のみで対応できる点も使いやすいですね。Ranorexの操作感は非常に直観的で簡単なので、抵抗なく自動化を進めることができました」と話す。
無影響確認テストの作業工数を半減 担当エンジニアのストレスも減少
刷新プロジェクトで採用されたRanorexは、特に「無影響確認テスト」の効率化において目覚ましい成果を挙げた。システム刷新後も、OSやWebブラウザーのアップデートに伴うテストで継続的に利用されている。無影響確認テストの作業工数は「導入前との比較で、ほぼ半減している」と山下氏は話す。
また、Ranorexはテスト担当者間のスキルギャップを埋めると同時に、手作業による人的ミスの抑制にも貢献しており、その結果としてシステムの品質向上にも寄与しているという。共通オンライングループのエンジニアで、テストを担当する篠崎裕亮氏は、「重要な検証に集中できることで、テスト作業のストレスが減っている」と話す。
「作業時間の削減はもちろん、例えば自分がこれまで作業したことがないケースであっても、必要な証跡取得までを自動で行い、すぐに検証に入れます。以前は、まずケースの内容を解釈して、必要な証跡を理解してからテストに入る必要があり、それが不十分だと再テストになるケースなどもありました。そうした手間がなくなり、より検証に集中できる環境になったことがメリットだと感じます」(篠崎氏)
テスト作業の効率化は、同社のエンジニアが開発・保守作業に費やす時間の削減に貢献しており、それはエンジニア自身が関心のある新しい技術領域を学んだり、グループの価値向上につながるデジタル技術活用のアイデアを生み出したりするための時間創出にもつながっている。
実感したテスト自動化のメリットを横展開 活用範囲を広げ導入効果の最大化を目指す
同社では、山下氏らのチームで実証したテスト自動化のメリットを、他チームへ横展開するための取り組みとして、テスト自動化をサポートする「Ranorex専任チーム」の立ち上げを検討している。現在は、実績のある山下氏のチームが中心となり、蓄積したRanorex活用のノウハウや知見を社内で発信、展開しているという。
山下氏は、「“良いツールがあります”と紹介するだけでは、なかなか利用者は増えません。Ranorexは“導入のしやすさ”というメリットを通じて、そうした状況を払拭できる可能性があると思います。そのためにも、導入を検討しているチームが、使い始めの段階であきらめてしまわないような仕組みを作ることで利用者を増やし、ひいては会社全体の開発生産性向上に寄与したいと考えています」と話す。
こうした取り組みは既に実を結び始めており、今後は社内の品質管理チームなどとも連携した、Ranorexの利活用範囲の拡大についても検討を始めている。
「Ranorexは単体でも効果を実感できるツールですが、設計や画面生成、他のテストツールなどとの組み合わせによって、さらに利活用の範囲が広がる可能性を感じています。Ranorexの活用方法をはじめ、開発生産性向上の取り組みに知見を持つテクマトリックスには、われわれのチャレンジを手厚く支援してもらえることを期待します」(山下氏)
取材日:2024年7月